スタイリストとしての経歴が長くなって自身が経営する美容院をオープンさせることを考え始めたら、最初にどんなことから検討を始めるでしょうか。
オープンさせるサロンの名前、立地、規模感や内装の雰囲気など自分の開くお店のイメージの想像が膨らみますよね。
そうした希望を叶えるためには開業のための資金についても事前に知っておかなければなりません。
将来的に美容院の開業と経営者としての道を目標としているスタイリストは「将来、その目標を達成するためには現実的にいくら資金を貯蓄しなければならないのか」と頭を悩ましている人も多くいるのではないでしょうか。
この記事では実際に美容院を開業させるためにはどのくらいの資金を用意しなければならないのか、その具体的な使用用途や資金を準備する方法などを含めて詳しく説明します。
美容院の開業にはいくらかかる?
美容院の開業をするための資金と言っても、ぼんやりとした表現なので具体的な想像ができない方も多いと思います。
オープンさせる美容院の規模や準備する設備、従業員数、土地の値段などによって準備しなければならない金額は左右されます。
そのため一律でいくらと言い切ることは難しいですが、1つの美容院をオープンさせるために必要となる予算はおおよそ1500万円前後と言われています。
日本政策金融公庫総合研究所が令和元年に実施した「新規開業調査」でも、業種は限定されておりませんが開業にかかった資金の平均は1,055万円と結果が出ています。
この結果は平成3年の調査を始めてから最低価格ということなので、これからは更に少ない費用での開業ができる時代になるかもしれません。
そうは言っても美容院にはシャンプー台などの高額な機材やそれ設置するための床の工事が必要になるため、ネイルやエステのサロンと異なってオープン前の設備投資が高額になりがちです。現在のところは美容院のオープンには最低でも1,000万円程かかると考えておきましょう。
開業に必要な費用
美容院をオープンさせる前には、場所の準備や店舗のデザイン、設備投資などあらゆる店舗づくりに資金が必要となります。
さらに、オープンしてからも経営が上手く回るまでの経営資金も用意しなければなりません。
ここからは美容院をオープンさせるためには具体的にどのようなものに大体どれくらいの費用がかかるのか分かりやすくお伝えします。
物件の取得のための費用
美容院をオープンさせるときには、貸しテナントを使って店舗を作ることが多いです。
そのテナントを借りるための契約に必要となる資金を物件の取得費用と呼びます。
物件の取得費用には大きく以下の費用が必要となります。
①礼金→テナントの家賃1ヶ月分
②敷金(店舗の保証金)→テナントの家賃の3ヶ月から1年分
③前家賃→テナントの家賃1ヶ月分
④仲介手数料→テナントの家賃の1ヶ月分
例として関東近郊で家賃24万円のテナントを契約すると想定するとそれぞれ下記の費用が必要となり、合計で約168万円から360万円が物件の取得費用となります。
①礼金→24万円
②敷金(店舗の保証金)→24万円×3ヶ月から1年分=72から288万円
(敷金は駅近な立地や商店街の中などの集客が容易な場所ほど高額になります。)
③前家賃→24万円
④仲介手数料→24万円
開業のための資金を1,000万円とする約16%から36%が物件取得のための費用となります。場所や店舗の規模によって家賃は左右されますが、総資金の中から最低でも15%から30%程度は物件の取得に必要と認識しておきましょう。
内装づくりのための費用
美容院をオープンさせるためのテナントが決まったら、次に必要になるのが内装づくりです。
内装づくりのための出費を少なくするのはハードルが高く、総資金の5割を内装づくりにかける場合も多く見られます。内装のために必要な資金は他の費用と分けて、きちんと管理することが重要となります。
美容院の内装づくりには空調、ガス、電気、排水などの設備に関する工事と床や天井、ウォールのデザインなどのデザイン面での工事が必要です。
美容院にはシャンプー台を代表とする給排水が多数必要になるため、内装づくりにかかる出費のおおよそ半分は設備に関する工事にかけることとなります。
また、居抜きなのかスケルトンなのかという貸しテナントの状況や内装デザインの程度、内装づくりを担当する業者次第でその出費額は異なります。
床や天井、壁などが何もない状態のスケルトン物件はあらゆるものを自身で考えて内装をつくることができますが、その分出費額は大きくなります。もちろんどの程度レベルの内装にするかによっても、かかる費用は大きく変動します。
前にそのテナントを借りていた店舗の内装のまま使うことのできる居抜き物件の場合は、美容院としての設備が仕上がっているので内装にかかる費用を最低限にすることができます。
ですが前のテナントが長くその内装を使用していた場合には設備の耐久性が低くなっている可能性があるので、あと何年その設備を継続使用できるのか事前にチェックする必要があります。
もし居抜き物件を改築をするということであれば、前のテナントの設備から気になる部分をチェンジすることができるので希望の内装を叶えることができます。ただし、場合によってはスケルトン物件で内装づくりをするときと費用がほぼ変わらないことがあるので
注意してください。
内装を仕上げるために必要な資金をできるだけ具体的に知るために、事前に見積もりの依頼をしたり、内装を担当する施工業者の実績を確認しておきましょう。
大型の美容器具の準備費用
美容室をオープンさせるためには下記の様な大型の美容器具を設置する必要があります。
①シャンプー用の台
②大型の鏡
③スタイリングのための椅子
④パーマやトリートメントで使用するための専用機器
⑤ヘアドライヤー
こうした機材は多く設置するほど、出費額は大きくなります。
パーマやトリートメントで使用する専用機器は使用目的に合わせて特化した機器や、1台で様々な目的に活用できるものなど様々な種類があります。
オープンさせる美容院で提供するメニューも検討しながら、それに合った専用機器をチョイスするのがおすすめです。
もしオープン当初から専用機器を用意することが予算的にハードルが高い場合には、一時的にレンタルをしてみるのもいいかもしれません。
その他設備にかかる費用
美容院には美容器具以外にも必要な機器や設備があります。例えば下記の様なものが挙げられます。
①ワゴン
②電話
③パソコン
④冷蔵庫
⑤待合いスペースに設置する椅子や机
⑥洗濯機
こうした設備についても新しく購入しようとすると多額の資金が必要となります。
できるだけ資金を残すために、開業時はリサイクル商品などを活用して安価に揃えて経営が順調になってきてから徐々に新しいものを購入するといった資金繰りをしましょう。
消耗品類
ヘアスタイリストが使用するカラーリングやパーマ用の材料費などを含む消耗品です。
例として下記が挙げられます。
①カラーリングなどに使用する薬剤
②タオル
③イヤーキャップ
④ケープやクロス
⑤ヘアシャンプやトリートメント
こうしたものも開業する美容院で提供するメニューの内容やボリュームによって必要なものは変動します。
お客様の細かいご希望を叶えるためには、シャンプーやカラーリング、スタイリングワックスなどはできるだけ多くの種類を準備しなければなりません。
とは言え、オープン当初から多数の薬剤などを準備するとその出費は多くなりますし、あまりオーダーがないものは在庫が余ってしまう危険性があります。
最初はあまり多くの種類を揃えず、オープンしてからお客様からのご希望や提供するメニューの内容に沿って必要な薬剤を再検討するといいでしょう。
美容院を開業させた経験のあるヘアスタイリストからの口コミなどを基に、オープンまでの用意しなければならない消耗品を書き出しておくと滞りなく消耗品の準備をすることができます。
開業前の宣伝費用
美容院をオープンしてから数ヶ月の経営状況は開業前の宣伝の程度に影響されると言われています。それ程、美容院の開業前に出す広告は大切なものですが、そこにかかる出費は見落とされがちです。
新しい美容院ができるということはそれだけで注目されますが、開業する前の広告は忘れずにきちんと出しましょう。
美容院の広告宣伝費は下記の様なものを指します。
①チラシの作成費用
②オープンする美容院の専用サイトの作成と運営のための費用
③広告媒体への掲載費用
作成したチラシ配りを外部業者に委託するときには更に委託費用が必要となります。
印刷からチラシ配りまで全てを実施してくれるなどポスティングの業者にも種類がありますので、1社ではなく数社を比べて依頼する業者を決定しましょう。
当面の事業運転資金
運転資金は絶対に必要となる資金です。
例え今の職場で担当しているお客様からの売り上げがオープン後も一定程度予測できるというケースでも、運転資金は必要となります。
例えば美容院の経営をする上で、絶対に必要となる出費として下記が挙げられます。
①スタイリストやアシスタントへの給与
②集客や従業員の求人をするための広告宣伝費用
③家賃やガス代、水道光熱費
④電話やインターネットのための通信費用
上記以外にもカラーリングやパーマに使用する薬剤やシャンプー、トリートメントといった消耗品や店舗の備品を購入するためにも細々とした経費も発生します。
毎月かかる固定費だけで数十万円の支払いをしなければならないので、少なく見積もって3ヶ月以上、全く収益が入らなくても経営を続けることができるだけの資金を持っておく必要があります。
また、収益がないということは経営者自身が生活するための費用もゼロということなので、収入が入らなくても生活を維持できるだけの費用も開業のための資金とは分けてキープしておかなければなりません。
美容院の開業経験のある美容師の多くは、オープンしてから経営が順調になるまで最短でも半年は必要と言っています。1年以上かかることもあるので、運転資金は少なくとも12ヶ月分は用意しなければならないと考えておいてください。
日本政策金融公庫総合研究所が実施したアンケート調査でも資金調達や資金繰りに関しては新規オープンのときだけではなく、「現在苦労していること」という項目でも回答者数の割合が高い結果が出ています。
オープンした後に資金繰りに悩まないためにもオープン時にはできるだけ多くの運転資金をキープしておきましょう。
開業するための資金を調達する方法
ここまでの説明で、新しく美容院をオープンさせるためにはどれくらいの資金を準備する必要があるのか見えてきたのではないでしょうか。
「開業のための資金を貯蓄するためには一体どれだけ長い期間が必要なのか」と頭を悩ましてしまった人もいるかもしれません。
家族や知人、親類縁者からオープンのために資金の協力をお願いするという手段もありますが、それはできれば避けたいですよね。
ここからは現在美容室をオープンして経営している経営者が資金を調達するために取った手段をご紹介します。その手段は大きく2つに分けられます。
自身で資金を貯蓄する
まず最初は自己資金を貯蓄するという手段です。
仕事をして得た給与の一部を開業のための資金として貯蓄して、最終的に目標の金額に到達したときには大きな達成感を得られるでしょう。
もし融資を受けるというケースでも自己資金があるかないかによって結果は変わるため、開業させるための資金の一部は自身で用意しなければならないと認識しておきましょう。
合計で1,000万の資金を目指すとした場合には、最低でも約300万前後は自身で貯蓄した資金で準備するのがベストです。
日本政策金融公庫の資金融資を利用する
2つ目にご紹介するのが日本政策金融公庫からの融資で資金を賄うという手法です。
日本政策金融公庫とは政府が出資をしている金融機関です。そのため民間の金融機関の補完を主旨としていますが国民生活を向上させることを目的としています。
全て国が出資しているため、民間の銀行から融資を受ける場合よりも低い金利で、保証人無し担保なしで原則融資をしてもらうことが可能です。
経営実績がなく融資を受けることが難しい開業時点でも、融資をしてもらいやすいという特徴があります。
申し込みをして融資のための審査を通過することができれば、融資をしてもらうことができます。
申し込みには条件となる項目が設定されています。
①自己資金の調達
②開業させる事業の計画書を作成する
③開業する予定の場所を仮押さえしている
こうした項目を満たしてから、融資の申し込みに挑みましょう。
更に返済できるかどうかについても審査に影響を与えるので、下記の点も注意してください。
①税金や公共料金の未納付や滞納実績がない
②金融商品の返済が遅れたことがない
③面談で厳しい質問を受けても真摯な態度を続ける
④自己資金を調達できている
⑤事業や創業の計画書の内容がきちんと書かれている
日本政策金融公庫の公式サイトには経営者に向けた事業開始前から開始時、開始後までの支援に関する詳細が載っています。
「創業の手引き」にはそれぞれの業種に向けた創業計画書の作成の例文などを含めた事業計画の作り方も掲載されているので、開業経験がない人でもしっかりとした事業計画を作ることができます。
融資を希望するのであれば事前に入念な準備をして審査を受けましょう。
美容室の開業へのハードルは高い
ここまで美容院を新しくオープンさせるためには様々な準備が必要になることを説明してきました。
開業のための資金の使用用途は大きな設備から小さな消耗品まで多岐にわたります。
運転資金という一つの項目を挙げてみても、多額の資金が必要なことに開業へのハードルは高いと考えた人も多いことでしょう。
美容師が開業を躊躇する2つの理由
開業できるだけの技術力をもっているスタイリストが独立開業をしようとしない理由として下記の2点が挙げられます。
①資金面で高リスクなため
②店舗経営のための知識不足
自身の美容院を経営するためには税金や収益、支出などの金銭面での管理から、事業の経営者としての経営戦略や運営方針といった能力が要求されます。
大多数の美容師はスタイリストとしてのスキルは持っていても、事業を経営するための知識や経験を持っていません。
そうした理由から自身の経営する美容院を開業したいと考えていても、その一歩を踏み出すことが難しいのです。また、オープンまでこぎつけてもスタイリストとしての技術力があるのに事業に失敗してしまうサロンも多く見られます。
多額の資金を用意しなければならないことも開業を諦めてしまう一つの要因となっています。
経営に失敗して事業撤退して借りていた資金を返済しなければならない状況を想像すると、怖気づいてしまい独立開業に進み出すことができたいスタイリストも多いのです。
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- SALON RYU代表
- ロンドンでの世界大会優勝
- KYOGOKU ACADEMY主宰
- KYOGOKU PROFESSIONAL代表
- SNSフォロワー総数100万人以上
21歳で「salon ryu」を開業。
2018年にはロンドンで行われたInternational Visionary AwardのCut&Colour部門でグランプリ受賞し、世界一の美容師の称号を得る。
プロの美容師のための商材ブランド「KYOGOKU PROFESSIONAL」の立ち上げや、美容師のためのオンライン学校「KYOGOKU ACADEMY」の主催など、美容業界の発展に尽力している。